八月号(R3)

主宰の随筆と選後抄  誌友のエッセイ

随筆    ”古壺新酒” 古賀しぐれ

  星に願いを

 

  

 

   

   四十億年前の原始の海から誕生したと言われる生命。それ以来、水の星地球は営々と生命を育んできた。昔から漁業を営む地域では沿岸の森林を保護する習慣がある。それらの森林は「魚つき林」と呼ばれた。海と山は川によって繋がっている。森が豊かであれば、その栄養分の一部が川に溶けだし、海へと運ばれ、その海は魚類の宝庫になるという訳。

 

 

   

  

 

  この美しい水の星、地球がコロナウイルスによるパンデミックとなり二年目を迎え、まだまだ終息に向かう気配がない。ステイホームで句会は殆ど中止。さて困った・・・。そこで去年の三月から毎朝ウォーキングを続けて、近所の里の景色を詠い続けている。世間の騒ぎとはまるで別世界。美しく桜が咲き、田植の風景が広がり、そして?時雨の夏から、紅葉の秋、霜が降り、氷の張る朝も欠かさずにウォーキング俳句に励んだ。いつもの生活では気づかなかった自然のちょっとした変化。人の世の災禍とは別に自然は生き生きとした姿を毎日見せ続けてくれたのだ。

 

 

   

  

   美しい水の星、地球の自然が続いて欲しいという気持ちが今までにも増して募っている。森の一滴から大河となり豊かな海へと繋がっているのだと改めて感じ入る日々。その自然が維持され、その自然から珠玉の一句が生れんことを願いつつ、毎日ウォーキング俳句に励んでいる。

  

 

  

     地球(ほし)涼し森の一滴より大河  しぐれ

           (「俳壇」七月号よりの転載)

 

 

 

 雲母の小筥(五月・薔薇を詠む)    松田吉上

 

  時間割覚え初む子に五月来ぬ         小梶綾子

 


松田吉上の寸評
 

 

   小学生であろうか。四月から進級したのであるが、五月ともなると新しい時間割を暗記するようになり、ランドセルに次々と教科書やノートを詰め込んでゆく。朝は決まった時刻に起き、朝食後の歯磨きや洗顔、身支度も親から言われずともきちんとやる子に育ってきたのだろう。そして遂に時間割を暗記する程に成長した。その様な子供の姿に頼もしさを覚えている作者。「五月来ぬ」に残る清々しい余韻と共に「時間割覚え初む」という具体的な措辞が成功しており、初夏の明るく生き生きとした生命感が句に迸る。

 


 

 



  薔薇に佇む横顔の皆詩人           奥野千草


松田吉上の寸評

  

   偉人というのは、真正面からの写真より横顔の写真が良い。正面は「光」であるが、「横顔」となると人間としての「陰」を感じて趣深い。同様に詩人や俳人も横顔が良い。子規や虚子も皆横顔に人生が漂っている。掲句は薔薇に佇む人達の横顔を作者は見ているのであるが、その横顔の陰翳に満ちた表情から、彼らは皆詩人であると詠う。薔薇は西欧的なものであるから、生まれる詩もきっとエキゾチックであろう。句に盛り込まれた「薔薇」の「陽」と「横顔」の「陰」が一句を絶妙に支えている。

 

 





心に残る句  小林けい     

 

 ビル風もあり不忍の蓮の花        小林圭子

 

 

 

  

 

   私の部屋にこの句の額があります。もう十三、四年前になりますが近所にお住まいの書道家のIさんが親娘個展をなさいました。当時娘さんは書家石飛博光氏の門下生で、東京での勉学、テレビに石飛氏のアシスタントとして活躍されておりました。丁度その日は私の誕生日です。難波に出たついでにその画廊に寄りました。

 

 

 

 

   

  Iさんの書は見慣れた墨痕麗しくあり、娘さんの書は筆?と違うもので、書道のイメージを遠く感じましたが何か心に響きました。夫も感じたらしく一枚書いて貰おうといい出しました。折角俳句を始めたのだからお前の俳句を書いて貰えと。びっくり仰天、思いも寄らない事です。私の俳句と言ってもまだ雛より卵、それもまだほやほやの卵で、近くの公民館に月一回行き出したばかりです。でも夫の誕生日プレゼントと言う言葉に押されました。それから句探しです。まだ句帳は大学ノート一冊の半分ほどしかなく、あんな所で言うなんてと段々腹が立ってきました。

 

 

 

  

 

  喜んでいる?Iさんに今更断れないし、誰にも見せない、書いた人は東京だしと、度胸を決めました。そして、以前に上野公園へ行った時、不忍池で見たまま詠んだ句がありました。まだ推敲の推もおぼつかない句でしたが、夫は私へのプレゼントが気に入ったようです。

 

 

  

   一ヶ月たって届きました。額の台地は薄いピンク色の布張り、そこに石飛流の躍動感溢れる字が書かれていました、バランスのいい書体、蓮の葉が風に翻り光を放ち、花が風に傾きます。遠くにはビル群が。書体は舞台衣装ですね。幼稚な句は私には輝いて見えました。二年程して「未央」に入れて頂き現在に至っています。
この額はわたしの宝物です。

 

 


一句鑑賞    山田佳音

会田仁子の一句鑑賞−句集「風の中より」−

 

 

長旅の夏のローマに買ふ帽子      仁子

 

   

  

  

 

  旅も長くなると気温も日々変化する。「二、三日前までは涼しかったのですがねえ」と地元の人は言うが、今日のローマは三十度を超えている。帽子無しでは出歩けない。素敵な帽子店に立ち寄り、お気に入りの帽子を買って、颯爽とサンピエトロ寺院へ。お洒落な作者らしい旅の一句。




     

 

  

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