五月号(H29)

主宰の随筆と選後抄  誌友のエッセイ

随筆    ”古壺新酒” 古賀しぐれ

  長谷寺の牡丹

  

 

 牡丹の名所として知られる長谷寺。大和と伊勢を結ぶ初瀬街道を見下ろす初瀬山の中腹に本堂が建っている。七千株と言われる牡丹があり、古くから花の御寺と称される。枕草子、源氏物語、更科日記など多くの古典文学にも登場する

 千百年前から牡丹の栽培が始まったとされる。そのルーツは唐の皇妃、馬頭婦人(めずぶにん)が寄進したものと伝わっている。馬頭婦人は顔が長く、鼻の形は馬に似ていた。どうかして美しい顔になりたいと願った婦人は、医師に相談するが、生まれつきの容貌は薬で治療は出来ないので、修行を積み、素神という仙人に願を託するようにと進言する。仙人は、それは仙人の及ぶところではなく神仏に祈祷すべきだと応える。最も威厳のある仏として、日本国の長谷の観音様が極位(ごくい)の菩薩であると進言したのだ。馬頭婦人は教えに従い、真心をこめて祈祷したところ、東方から尊い僧が現れ、瓶水(びょうすい)を顔に注いでくれると、忽ちに端正で威厳のある顔立ちに変わっていたとか。これは長谷寺の観音様のお陰であると喜び、海辺から種々の宝物をいれた小舟を浮かべ、長谷寺に至るように銘文を刻んだ。婦人の願い通りに長谷寺にもたらされた宝物。その中に牡丹もあり、それが根付き、今日に至っていると伝わる。

牡丹散つてうちかさなりぬ二三片  与謝蕪村

牡丹百二百三百門一つ   阿波野青畝


 花の女王と言われる牡丹。馬頭婦人の伝説もさもありなんと思わせる長谷寺の華麗な牡丹。そして木造彫刻の中では最大の十一面観音菩薩像の荘厳なるお姿。是非とも合わせて拝見し、歴史の語る長谷寺の空気に浸り、美人とはいかずとも、心美人となりたいものである。




 雲母の小筥(雛・啓蟄を詠む)    加藤あや選

 

  雛飾る百歳越ゆる我が齢     千賀清子


加藤あやの寸評

 

 作者、年齢百三歳とあります。まさに長寿日本を代表するようなお方です。そして、雛を飾り、俳句を楽しみ、お元気でいらっしゃる、私達の憧れの目標のような存在ではあります。どうぞ、いつまでも俳句を楽しんで頂きたいと願っております。

 

 




    啓蟄や久米田古墳の三角点     釜下香石


加藤あやの寸評

 

 三角点とは、測量の基準点となる処です。岸和田の久米田寺あたりでしょうか。啓蟄の頃となり、今までは静かであった古墳山あたりも、人の動き、物の動きも見え始めて、三角点のあり処が自づと目にとまったのでしょうか。





心に残る句    萩山ミツ子     

 

 古池や蛙飛びこむ水の音    芭蕉

 

 俳句といえば、真っ先にこの句が浮かんできた。
小学四年の国語の教科書を、思い出した。暗記するという事で何度も繰り返した事を、懐かしく思い出している。

 今の学童を見ると自分にもあんな時代があったのかと感慨深くなる。当時は真似ごとをしたり奥深く考える事もなく、ただ棒読みで授業を受けていた。漠然としていた様に思う。これも又懐かしく同級生の顔まで浮かぶ。こんな事を書くのも、もどかしいけれど懐かしい。何十年前の担任の男前先生まで思い出すきっかけになり、顧みる自分にもなった。

 そもそも、俳句をするきっかけになったのは、今から三十余年前ある活動をしていて、終止符を打つ事となった。
それで、俳句でも始めて「グループを継続しよう」と誘い誘われ今日に至っている。
坂本信子会長のお世話で「庄俳句会」となり、徳永玄子先生を迎えての、俳句との出合いが始まった。
一ヶ月に一回の句会も、時だけは、皆まんべなく過ぎ、当たり前の事がなかなか思う様にならず、自暴自棄になる事もしばしばだったが、一緒に始めた仲間達の繋りで出掛ける句会を苦会と思いつつ楽しんでいる。句友の絆と言うものだろうか。

 徳永玄子先生に師事し、坂本信子会長のもとで、句友の人達の出会いを大切に、余生を曲りなりにも句会に参加し、下手でも楽しみたいと思っている。故人となられた句友の方々を思う時。息の長い「庄俳句会」でありたいと願って止まない。
「遥かなる町の灯点る夕桜」玄子
この句は私達の住んでいる「庄、十輪寺」境内に句碑の絆がある。毎年春になると、大勢で吟行をしている。




一句鑑賞    水野芳英

岩垣子鹿の一句鑑賞−句集「やまと」−

 

アカシヤの花の向うの町へ旅    岩垣子鹿

わが国でアカシヤというのは多くは「はりゑんじゆ」別名ニセアカシアのことで北アメリカ原産と歳時記にある。札幌の並木が有名で、旅情を誘う花。旅をされた時の句なのか、それとも北国への旅の憧れの句なのだろうか。


 



     

 

  

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